北海道知事への公開質問状

当質問状は、2021年3月15日に、「アイヌ(=ひと)の権利をめざす会」と北海道の関連部局担当者(アイヌ政策課、漁業管理課)との話し合いの中で、めざす会より道知事名での回答を求めたところ、道側から書面での提出を依頼されたことから道知事宛の質問状の形でまとめたものです。以下の質問に対し、道知事の回答を6月15日までにお願いいたします。

 

  1. 2007年に国連が採択した「先住民族の権利に関する国連宣言」は、世界の先住民族に共通に認められる権利の最低限度の基準(宣言第43条)を示したものです。日本政府もこの宣言の採択に賛成票を投じていますが、アイヌ民族先住の地の自治体である北海道は、この宣言の全条文がアイヌ民族に適用されるとお考えでしょうか? 道知事の見解をお聞かせください。
  2. 先般、TV番組内でのアイヌ差別表現の放映が問題となりましたが、北海道は行政としてアイヌ民族の歴史や権利についての道民の理解を広めるためにどのような取り組みをしていますか? アイヌ副読本(『アイヌ民族・歴史と現在-未来を共に生きるために』)の実際の活用状況や、教員研修や大学の教員養成課程、道職員に対する研修などでどのように取り上げているのかなど、具体的に教えてください。
  3. 北海道においては、いわゆるアイヌ政策のみならず、あらゆる政策に先住民族であるアイヌ民族の視点や意見が反映される必要があると考えます。道知事は、北海道の諸政策についてアイヌ民族諸団体と協議をする常設の話合いの場(審議機関)を設ける意向はありますか? また、アイヌ民族の声を十分に政策に反映させるには、どのような取り組みが必要と考えますか?
  4. 北海道は、1988年に以下の内容を含むアイヌ新法の制定を政府に要請しています(1.アイヌの人たちの権利を尊重するための宣言、2.人権擁護活動の強化、3.アイヌ文化の振興、4.自立化基金の創設、5.審議機関の新設)。その後、政府はアイヌ民族に関する法律を2回に渡って制定していますが(1997年・アイヌ文化振興法、2019年・アイヌ施策推進法)、いずれの法律も上記の3.以外の内容にはほぼ触れていません。道はいまも、1988年に政府に要請したアイヌ民族の権利を尊重する姿勢を持ち続けていますか?
  5. 道のアイヌ民族に対する政策は、2007年の「先住民族の権利に関する国連宣言」の採択や2019年のアイヌ施策推進法における先住民族の明記などを受けて、どのような変化がありましたか?
  6. 北海道では、2020年にこれまでの北海道海面漁業調整規則と北海道内水面漁業調整規則を廃止し、北海道漁業調整規則を新たに公布、施行しています。この変更にあたって、利害関係者であるアイヌ民族への十分な情報提供やアイヌ民族との協議はされたのでしょうか? 規則改定の経緯について、詳しくお聞かせください。
  7. 道が先日策定した新たなアイヌ政策推進方策では、「第2 背景・歴史・現状」の中で「生活基盤となる河川や森林などの自然環境の変化、鳥獣捕獲や河川漁業の規制などにより、アイヌの人たちの生活や文化が受けた打撃は決定的なものとなりました」と述べられています。しかし、河川漁業の規制などについては現行の制度も当時と変わっておらず、儀式に際して自主的に河川でサケを捕獲した紋別アイヌ協会の畠山敏会長らは、密漁扱いで道庁職員によって警察に告発されました。また、知事はサケ漁の権利回復に向けた提案を受けたうえで、記者会見で「現行の制度を変えるつもりはない」とあえて発言しています。これでは、道(知事)はアイヌ民族に引き続き決定的な打撃を与え続けることを肯定していると受け止められますが、そうなのでしょうか? 記者会見時の発言の意図を詳しく教えていただくとともに、サケに対するアイヌ民族の権利回復に向けた制度改正を求める声(3月15日に提出した5,000筆を超える署名)を踏まえたうえで、現在の知事の見解をお聞かせください。
  8. 道は、先般TV番組内でアイヌ民族に対する差別表現が放映されたことに対し、知事名で北海道アイヌ協会と共に抗議の声明を発表しており、「このような差別やいじめなど、心ない行為は決してあってはならず、アイヌの人たちに対して、アイヌであることを理由に差別することやその他権利利益を害する行為をしてはならない」と明言しています。しかし、一方で道は自らアイヌ民族に決定的な打撃を与えたと記述している河川漁業の規制を今も継続しており、国連の権利宣言にも示されている資源に対する先住民族の権利を侵害しています。これはアイヌ民族の「権利利益を害する行為」にあたるのではないでしょうか? 道知事の見解をお聞かせください。

 

2021年5月14日

 

「アイヌ(=ひと)の権利をめざす会」

共同代表 貝澤耕一/宇梶静江/萱野志朗/田澤守/OKI

 

<連絡先>

〒060-0061 札幌市中央区南1条西5丁目愛生舘ビル5F

さっぽろ自由学校「遊」気付

アイヌ(=ひと)の権利をめざす会


北海道からの回答書

2021年7月1日付けで、北海道庁から「めざす会」に回答書が届きました。

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北海道知事あて公開質問状(2021年5月14日付け)に対する北海道庁からの回答書(2021年7月1日付け)
20210701Hokkaido.pdf
PDFファイル 90.7 KB

「アイヌ(=ひと)の権利をめざす会」御中

 

5月14日付けの質問状について、次のとおり回答します。

 

1 平成19年に先住民族の権利に関する国際連合宣言が採択され、我が国も 成票を投じたところです。この宣言については、法的拘束力はないものの、先住民族に係る政策のあり方の一般的な国際指針とされています。

 アイヌ施策推進法については、国連宣言が差別を受けない権利や国民の理解の促進、先住民族の文化に関する権利などについて規定していることから、アイヌの人々に対する差別の禁止に関する基本理念、国や地方公共団体による教育活動、広報活動等の責務等を規定しており、新たに創設された交付金制度や法律上の特例等の措置により、アイヌ文化の振興や国民の理解の促進を図ることとしています。

 国は、アイヌ施策推進法の制定及び現行の関係法令により、先住民族の権利に関する国連宣言に示されている国の果たすべき責務については、憲法等との課題整理を図る必要があるものを除き、おおむね措置できているとの考えを示しています。

 なお、先住民族に係る政策のあり方については、国が検討するものと考えています。

 

2 道では、アイヌ文化や歴史についての正しい理解を促進するため、一般の方々向けに啓発冊子を作成しているほか、ホームページでも周知を図っています。

 職員に対しては、新採用職員研修において、北海道の歴史についての研修の中で、アイヌ文化に関する内容を扱っています。

 また、アイヌ民族文化財団では、アイヌの歴史や文化について理解の促進を図るため、パンフレットを作成し、図書館、博物館、アイヌ関係団体、主催事業の来場者に配布しているほか、小学生・中学生に向けた副読本を作成し、道内の小学校4年生、中学2年生の全ての児童・生徒に配布しており、教員に対しては副読本に関する指導書を作成し、研修会を開催しています。

 

3 道の各政策における方針や計画等の検討に当たっては、それぞれの分野での有識者や関係者の意見を伺うほか、パブリックコメントにより、広く道民の意見を聞くこととしていますので、ご指摘のような場を設けることは考えていません。

 

4 北海道、北海道議会及び北海道ウタリ協会は、昭和63年、新法の制定を国に要請しており、その後、平成4年の国連「世界の先住民の国際年」開幕式典における北海道ウタリ協会野村理事長(当時)の記念演説、平成19年の国連宣言、平成20年の衆参両院での「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」の採択、平成21年のアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会報告といった国内外での大きな動きの中で、国においては、様々な検討を進め、平成31年のアイヌ施策推進法の制定(令和元年施行)に至ったものと認識しています。

 

5 道においては、アイヌの人たちが先住民族であるとの認識を示したアイヌ施策推進法のもと、「理解の促進」、「生活の向上」、「文化の振興」、「地域、産業及び観光の振興」、「多様な文化との交流の促進」の5つの施策を柱とする「北海道アイヌ政策推進方策」(令和3年度から令和7年度までの5年間)を今年3月に策定し、アイヌの人たちが民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての道民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指しています。

 

6 令和2年12月1日に「漁業法等の一部を改正する等の法律」が施行され、 道府県がこれまで海面と内水面に分けて制定していた漁業調整規則を一本化した漁業調整規則を制定することとされたことから、道は、同日付けで海面漁業調整規則と内水面漁業調整規則を廃止し、新たに北海道漁業調整規則を制定しました。

 なお、新たな規則の制定に当たっては、説明会などを開催し、周知に努めてきたところですが、サケの特別採捕の手続きに関しては変更がなかったことから、個別の協議は行っていません。

 

7 内水面でのサケの採捕は、水産資源保護法等で禁止されていますが、道では、アイヌ文化の伝承等を目的とする採捕については、北海道漁業調整規則により、申請に基づき特別に採捕することを許可しています。

 道としては、アイヌ施策推進法第17条「漁業法及び水産資源保護法による許可についての配慮」の規定に基づき、特別採捕許可の申請事務を簡素化するなど、今後もアイヌの人たちの負担軽減に取り組んでまいります。

 

8 内水面漁業の規制がアイヌ民族の「権利利益を害する行為」にあたるのではないかということについては、現在係争中につき、回答は差し控えさせていただきます。

 

令和3年(2021年)7月1日

 

北海道環境生活部アイヌ政策推進局

アイヌ政策課長 髙野政敏

 

北海道水産林務部水産局漁業管理課

サケマス・内水面担当課長 村木俊文